東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)27号 判決 1970年1月26日
東京都渋谷区恵比寿南二丁目二五番地
原告
織田一
右訴訟代理人弁護士
小沢茂
佐藤義彌
斉藤義雄
東京都千代田区大手町一丁目七番地
被告
東京国税局長
谷川寛三
東京都渋谷区宇田川町二八番地
被告
渋谷税務署長
浅野一夫
右指定代理人
岩上準二
右両名指定代理人
岸野祥一
山口三夫
戸田徳松
菊地秀臣
吉本宏
主文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立て
(原告)
「被告渋谷税務署長が原告の昭和三六年分所得税につき昭和三七年一二月二一日付でした更正処分および過少申告加算税の賦課決定で被告東京国税局長の後記第二項掲記の審査裁決によつて維持された部分を取り消す。
被告東京国税局長が原告の右第一項掲記の更正処分および過少申告加算税の賦課決定に対する異議申立てにつき昭和三九年一一月九日付でした審査裁決の事業所得金額のうち三九万六、一二八円をこえる部分を取り消す。
被告渋谷税務署長が昭和三九年三月二三日付で別紙目録(二)記載の建物についてした差押処分が無効であることを確認する。
訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決
(被告ら)
主文と同旨の判決
第二原告の主張
(請求の原因)
一 原告は、別紙目録(一)記載の建物に居住して貸本業を営んでいたものであるが、昭和三六年分の所得につき被告税務署長に対し事業所得三九万六、一二八円、給与所得三、三二五円、雑所得八万六、三〇〇円、合計四八万五、七五三円と確定申告したところ、同被告は、原告には同年中において前記建物およびその敷地の借地権を日興土地開発株式会社(以下日興土地という。)に対し代金五六三万円で譲渡した事実があると認めて、譲渡所得二四三万九、四二〇円、合計所得金額二九二万五、一七三円と更正し、過少申告加算税三万五、三五〇円の賦課決定をした。
そして、これに対する原告の異議申立ては、国税通則法八〇条一項一号の規定により、被告国税局長に対する審査請求とみなされ、同被告は、その裁決において、原処分の認定した建物および借地権の譲渡価額五六三万円の中には、移転費用二〇万円、営業補償金三〇万円が含まれており、さらに、原告は島藤建設工業株式会社(以下島藤建設という。)に対し仲介手数料一四万円を支払つているので、右資産の譲渡価額は、これらの金額を控除した四三八万八、八四〇円であるとして、譲渡所得金額を二一一万九、四二〇円に減額し、また、雑所得八万六、三〇〇円は、営業補償金三〇万円から移転のために要した二一万三、七〇〇円を控除したものであり、右のように移転費用二〇万円を別途に受けているので、当該金額は二八万六、三〇〇円とするのが相当であるが、右所得は雑所得ではなく事業所得と認めるべきであるから、係争年中の雑所得金額は、零、事業所得金額は、確定申告に係る三九万六、一二八円に右二八万六、三〇〇円を加算した六八万二、四二八円であり、なお、前記給与所得(恩給)は、所得控除金額の計算に誤りがあつて零が相当であるとしたうえで、合計所得金額を二八〇万一、八四八円、過少申告加算税を三万三、二〇〇円に減額した。
原告は、右審査裁決にも不服であつたので所得税の納入をしなかつたところ、被告税務署長は、昭和三九年三月二三日付で、その滞納処分として、別紙目録(二)記載の建物を差し押えた。
二 しかし、前記被告税務署長のした更正処分および過少申告加算税の賦課決定で審査裁決によつて維持された部分並びに被告国税局長の審査裁決の事業所得金額中三九万六、一二八円をこえる部分は、次に述べる理由によつて違法であるので取り消されるべきであり、したがつて、前記差押処分もまた、無効であるというべきである。すなわち、
(1) 別紙目録(一)記載の建物は、被告らのいうように日興土地に譲渡したものではなく、島藤建設との問において同目録(二)記載の建物と交換したのである。いま、その事情を詳述すると、
原告は、島藤建設がマンシヨンを建設するにあたり、昭和三六年一一月四日頃同社との間に、(イ)原告は、別紙目録(一)記載の建物を島藤建設が同年一二月末日までに建築する同目録(二)記載の建物と交換する。(ロ)島藤建設は、別途に、原告が交換に供する右(一)の建物に設定された住宅金融公庫の低当権を滌除するため二三万円を支出し、また、原告に対し移転費用および営業上の損失補償の予定賠償額として五〇万円を支払う旨の契約を締結した。もつとも、その後、原告は、同月下旬頃、島藤建設の取締役山下銜の来訪を受け、原告が右(一)の建物およびその敷地借地権を代金五六三万円で直接日興土地に売り渡し、該代金の一部をもつて島藤建設が原告に支払うべき右別途金の支払いに充当する旨を記載した原告の全く関知しない書面を見せられ、今回資金の都合でマンシヨンの建設は日興土地が肩替りして行なうこととなつたが、この書面は島藤建設が日興土地から融資を受けるために必要なものであるから、是非これに印だけ押してもらい度い旨懇請されたので、同人の言を信じてこれに押印し、また、翌昭和三七年一月中島藤建設の建築部工事長加賀谷徳三に対し島藤建設が日興土地から金を受け取るために必要だというので白紙委任状を交付したことはある。しかし、もとより、これらのことによつて、原告と日興土地との間に右書面記載のような内容の契約が成立するいわれはなく、別紙目録(一)記載の建物については、前叙のごとく、島藤建物との間の交換契約が存在するにすぎず、現に、原告は、同交換契約の趣旨に従い、島藤建設から前記金五〇万円の予定賠償額の支払いを受け、昭和三六年一二月一日島藤建設に対して右(一)の建物を明け渡し、翌三七年四月頃島藤建設より右(二)の建物の引渡しを受け、同物につき同月一六日保存登記を経由した次第である。
ところで、原告が島藤建設との交換によつて取得した右(二)の建物は、アパート式の共同住宅で、原告は、これを貸本業の店舗兼住宅として使用する。(担し、貸本業は昭和三八年八月廃業した。)傍ら、その一部を他人に賃貸しているが、もともと不動産の賃貸しのごときは、税法上収益事業とされていないのであるから、右の事実をもつて、同建物を事業等にあわせて用いているということにはならないのみならず、同建物自体構造上からみても小規模なものであり、賃貸部分も全体の五割に満たず、かつ、原告は他に居住用家屋を所有していないのであるから、その全部をもつて居住用家屋と認めるべきであり、また、前記交換にあたり島藤建設が支出した二三万円は前叙のごとく原告が譲渡に供する建物について設定された住宅金融公庫の抵当権を滌除するための費用であつて、それだけ同建物の譲渡価額が減額されることとなり、もとより、原告がその支払いを受けるものではない。
したがつて、右交換は、居住用財産と同種の他の財産との交換に該当し、しかも、その交換により金銭その他当該居住用財産以外の財産の授受が行なわれなかつたのであるから、租税特別措置法(昭和三七年法律第四六号による改正前のもの。以下同じ。)三八条の規定により、譲渡所得金額の計算にあたつては、当該居住用財産の譲渡がなかつたものとみなされるべきである。
(2) 仮りに、右が交換でない等の理由によつて租税特別措置法三八条の適用が否定されるとすれば、
(イ) 原告は、被告税務署長の所部職員から同法条の適用がある旨を聞かされ、その指導の下に、譲渡所得金額零とした確定申告書を提出したのであるが、そのために、かえつて当然受けたはずの同法三五条所定の居住用財産買換えによる租税の減免が受けられない結果を招来したこととなるので、右適用の否認は、被告税務署長の所部職員の過語を原告に転嫁し、それによつて原告に重大な損害を与えるものであつて、まさに、信義則に違反するものというべきである。
(ロ) また、前記のとおり、原告が別紙目録(二)記載の建物を島藤建設から交換によつて取得したのは、昭和三七年四月中であるから、原告は、昭和三六年においては譲渡所得がなかつたこととなる。
(3) 次に、被告国税局長の審査裁決の固有の瑕疵についていえば、(イ)被告国税局長は、前叙のごとく、事業所得金額を原告の確定申告に係る三九万六、一二八円に二八万六、三〇〇円を加算した六八万二、四二八円であると認定したが、右は当該事業所得に関する限り、これを原告に不利益に変更したものであるから、行政不服審査法四〇条五項担書の規定に違反するものというべきである。(ロ)また、右二八万六、三〇〇円は、前叙のごとく、原告が雑所得として申告した営業補償金三〇万円から移転のために要した二一万三、七〇〇円を控除した八万六、三〇〇円に移転費用二〇万円を加わえたものであるが、右営業補償金三〇万円、移転費用二〇万円は、いずれも、原告が島藤建設から受領したもので、しかも、予定損害賠償金であり、同被告の認定したごとく日興土地から受領したものでなければ、また、事業所得を構成するものでもない。
第三被告らの主張
(請求の原因に対する答弁)
原告主張の請求原因事実中、原告と島藤建設との間にその主張のごとき交換が行なわれたこと、別紙目録(一)記載の建物の敷地跡にマンシヨンを建築したのが島藤建設であること、同目録(二)記載の建物の賃貸部分が五割未満であることは、いずれも否認するが、その余の主張事実は、認める。
(主張)
(1) 日興土地が別紙目録(一)記載の建物の敷地にマンシヨンを建築することを計画し、その建築工事の請負人たる島藤建設の仲介によつて、昭和三六年一一月二二日原告と日興土地との間に甲第四号証の契約書に記載されたような内容の契約、つまり、原告が右建物とその敷地借地権を代金五六三万円で日興土地に対して譲渡する旨の契約が成立し、その後、原告は日興土地より得た前記売買代金をもつて島藤建設に同目録(二)記載の建物を建築させてこれを所有するにいたつたものであつて、原告の主張するような右両建物交換の事実は、存在しない。しかも、部屋貸は、税法上いわゆる事業に準ずるものとして取り扱われるべきである(租税特別措置法三八条の六第一項、同法施行令二五条の六第一項参照)から、原告の取得した右(二)の建物は、事業併用住宅であり、また、店舗兼用住宅の一戸あたり全国平均二一・七五坪(七一・九〇平方メートル)、東京都平均一六・三二坪(五三・九五平方メートル)であることからみても明らかなとおり、決して、小規模の建物であるということはできず、さらに、原告は、そのうちの一階六畳の部分を除く四・五畳の部屋六室(いずれも、流し、押入れ付きの貸室)を一部屋あたり月六、〇〇〇円ないし七、〇〇〇円で他人に賃貸しているのであるから、その全部をもつて居住用家屋と認めることはできない。また、前記取引にあたり、授受された二三万円は、仮りに原告主張のごとく、現実に原告に支払われたものではないとしても、建物の譲受人は、その譲受けの反対給付の一部として右の金員を原告のために支出し、原告をして同額の債務の支払いを免かれしめたのであるから、右金員が直接原告に支払われたかどうかにかかわらず、譲渡の対価の一部として居住用以外の財産の授受が行なわれたことに変わりはない。
以上いずれの点からしても、原告が別紙目録(一)記載の建物を譲渡して同目録(二)記載の建物を取得したことについて、租税特別措置法三八条の規定を適用することは、許されないものというべきである。
(2) 原告は、信義則違反の主張をするが、仮りに原告主張のような事実があつたとしても、所部職員の過語は、もともと原告が同職員に対して取引きの事実をそのまま具体的かつ詳細に告げなかつたことに基因するものであるから、自らの非を棚に上げておいて所部職員の指導の過誤のみを非難するのは、あたらないといわなければならない。
(3) 国税の課税標準又は税額等に関する処分に対する審査請求においては、原処分の総所得金額認定の適否が判断の対象となるのであつて、総所得金額を構成する個々の所得の金額の認定の適否が判断の対象となるものではなく、したがつて、最終納税額を増額することのみが不利益変更にあたるというべきところ(昭和三八年一二月一八日国税庁長官通達、第四〇条関係第三項参照)、被告国税局長のした本件審査裁決は、結論として、原処分の一部を取り消しているのであるから、行政不服審査法四〇条五項担書違反をいう原告の主張は、理由がない。また、原告は、本訴において課税処分の取消しのほか滞納処分の無効確認を求めているが、課税処分の違法はそれとは別個独立の処分である滞納処分によつて承継されているのであるから、右滞納処分無効確認の訴えは理由がないものというべきである。
第四証拠関係
(原告)
甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし五、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二を提出し、証人山下銜、加賀谷徳三の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第四号証、第五号証の一、二、第八号証の各成立を認め、第六号証は原告が取得した建物の写真であること、また、第七号証の一、二の原告名下の印影は認めるが、原告の署名は否認し、爾余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立は不知。
(被告ら)
乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一ないし六、第八、第九号証を提出し、証人甲斐林平の証言を援用し、甲第一ないし第四号証、第九号証の一、二の各成立を認め、その余の甲各証証の成立は不知。
理由
原告主張の請求原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。
そこで、まず、租税特別措置法三八条適用の有無について判断する。
原告が別紙目録(一)記載の建物を所有し、そこに居住して貸本業を営んでいたが、昭和三六年一二月一日これを他に明け渡し、昭和三七年四月同目録(二)記載の建物に入居し、同月一六日これについて原告のために保存登記が経由されたことは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三、第四号証、同第九号証の一、二、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認める甲第五号証、乙第七号証の一、二(ただし、原告名下の印影の成立については争いがない。)証人甲斐林平の証言によつて真正に成立したものと認める甲第六号証、乙第一号証の一ないし三、同第二、第九号証証人山下銜、加賀谷徳三、甲斐林平の各証言および原告本人尋問の結果(ただし、甲第五第六号証の各記載および証人加賀谷徳三、原告本人の各供述中後記信用しない部分を除く。)と本件弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、日興土地は、昭和三六年九月ころ、島藤建設の勧めにより、別紙目録(一)記載の建物の敷地を含む周辺の土地の上にマンシヨンを建築することを計画し、その敷地買受方の斡旋を島藤建設において行なう約旨の下に、同社に右建築工事を請負わせ、島藤建設は、買受人が日興土地であることを告げないで、原告と右建物およびその敷地借地権の売渡しについて交渉を続けた結果原告から、売つてもよいが、多額の譲渡税が課せられるようになつては困るので、むしろ、右の建物に代わる建物を建築して、これを右の建物およびその敷地借地権と交換するようにしてもらいたい旨の申出があり、島藤建設としては、原告が日興土地から受け取るべき売買代金をもつて原告のために新らしい建物を建築すれば、原告の希望をかなえることができ、同時に、日興土地に別紙目録(一)記載の建物とその敷地借地権を入手させることができるものと判断して、原告に対して右申出を承諾する旨を答えた。そして、その後、原告は、島藤建設の協力の下に新らしい借地を探し求めたが、適当な土地が見付からず、一方、島藤建設も、日興土地から請負つたマンシヨンの建築工事の開始にせまられていたので、同年一一月四日、両者の間において、ひとまず、島藤建設は、原告のために別紙目録(二)記載の建物の敷地を提供してその上にアパート式共同住宅たる同建物を建築し、それまでの間仮営業所を建てて原告の一年間の無償使用を認め、かつ、別途に、原告が右(一)の建物について住宅金融公庫に設定していた抵当権を滌除するための費用二三万と原告の移転費用および営業損失補償金五〇万円を負担し、原告は、島藤建設に対して同年一一月一五日までに前記(一)の建物を明け渡す旨の契約が締結された。ところが、右建物の明渡しが遅れているうち、原告は、同年一一月二二日島藤建設の建築部工事長加賀谷徳三から、原告が前記(一)の建物およびその敷地借地権を直接日興土地に対して代金五六三万円で売り渡し、右代金の一部をもつて島藤建設が原告に支払うことを約諾した前記別途金の支払いに充当するものとし、原告は日興土地又はその指定する者に対して同年一二月一五日までに右土地・建物を明け渡す旨を記載した。島藤建設を立会人とする甲第四号証の契約書を見せられ、はじめて事の真相を知るにおよんだが、右加賀谷より島藤建設との間の前記契約のこともあるので多額の租税を負担させられるおそれはないとの添言もあつたので、右契約書の記載の内容を了知したうえで、こわれるままに同書面に押印し、また、同日付で、島藤建設との間の前記契約について甲第三号証の書面が作成されるにいたつた。かくして、日興土地は、右売買代金として、即日一二三万円、同年一二月一日三三〇万円、同月二二日残金一一〇万円を島藤建設を通じて原告に支払い、島藤建設は、日興土地から受領した右代金合計五六三万円のうちから前記抵当権滌除のための費用二三万円、営業補償金、移転費用等五〇万円を控除し、残余の四九〇万円をもつて別紙目録(二)記載の建物を、建築主原告として、建築した。以上の事実を認めることができ、右認定に反する前掲甲第五第六号証の各記載部分および証人加賀谷徳三、原告本人の各供述部分は、その余の前掲各証拠と対比してたやすく信用することができず、他に同認定を左右するに足る証拠はない。
これら認定に係る諸事実によれば、原告は、別紙目録(一)記載の建物とその敷地借地権を直接日興土地に売り渡したものと認めるに十分であるから、右(一)の建物を同目録(二)記載の建物と交換したことを前提とする原告の租税特別措置法三八条の主張は、前提そのものが失当であるので、その余の争点について判断するまでもなく、採用できないものといわなければならない。
なお、原告の信義則違反の主張は、原告が被告税務署長の所部職員の指導によつてはじめて租税特別措置法三八条の規定の適用のあることを知つたことを前提とするものであるが、この点は、明らかに前記主張と矛盾するのみならず、もともと、所得税の確定申告は、納税者が自己判断とその責任において行なういわゆる私人の公法行為であるから、たとえその過程において税務署職員に相談し、同職員から誤つた指導・助言を受けたとしても、このことの故をもつて、右指導・助言の趣旨と異なる税務署長の更正又は決定が信義則に違反すると主張することは、許されないものというべきである。したがつて、原告の右主張は、被告らのいうように、原告が被告税務署長の所部職員に相談するにあたり同職員に対して前叙認定に係るごとき諸事実を告げたかどうかを審究するまでもなく、主張自体理由がないものとして排斥すべきものとする。
また原告が係争年中において譲渡所得を得ていない旨の原告の主張は、措辞簡略に失するきらいはあるが、原告が別紙目録(二)記載の建物を取得したのは昭和三七年四月であるから、係争年において譲渡所得を課することの違法をいうものと解される。しかし、原告の右主張は、前記交換を前提とするものであるが、かかる前提の事実そのものの認められないこと前段説示のとおりであるから、採用に由ないものというべきである。
次に、被告国税局長のした審査裁決にその固有の瑕疵があるかどうかについて判断する。
被告国税局長のした審査裁決が被告税務署長のした更正処分の所得金額および税額の一部を取り消したことは、原告の自ら認めて争わないところであるが、国税の課税標準又は税額等に関する処分に対する審査請求においては、原処分たる更正又は決定の総所得金額認定の適合が判断の対象であるから、審査裁決が総所得金額を構成する或種の所得の金額を原処分より多額に認定したものとして、これによつて総所得金額の増加をきたさない以上、原処分を請求人の不利益に変更したものということはできない。それ故、原告の右主張は、もとより、雑所得を事業所得と認定したことの違法をいう主張もまた、単なる総所得金額認定の過程における過誤を攻撃するにすぎないものであるから、採用の限りでない。
されば、本件更正処分および審査裁決には、原告主張のごとき瑕疵が存しないので、右各処分の取消しを求める請求は、理由がなく、また、これらの処分の取消しを条件とする本件差押処分の無効確認を求める請求もまた、理由がないものというべきである。
よつて、原告の請求は、いずれもこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 中平建吉 裁判官 渡辺昭)